本研究は、イランの一地方名望家が残した私家文書群の分析を通じて、近代以降、とくに19世紀後半から20世紀半ばにかけて、イランの農村社会どのように変容したかを実証的に明らかにしようとする試みである。具体的な対象地域としては、イラン西部のコルデスターン(クルディスターン)州の州都サナンダジュにあったヴァズィーリー家の文書を主たる対象として取り上げる。 平成21年度には1年間イランに滞在し、同家に関する史料数百点を収集したが、22年度は、もっぱらこれら史料の整理・分析を進めた。とくに、ヴァズィーリー家による土地の売買にかかわる文書の解読を進めた。 このほか、夏期には2週間ほどイランに滞在し、アルダビールからラシュトにかけてイラン北西部を中心に景観の調査を行った。イランの農村を研究対象とする以上、コルデスターン以外にも多様な風土と景観を確認しておく必要があると考えたからである。また、イラン滞在中には、当該テーマにかかわる図書の収集にもあたった。このほか、イラン外務省の文書館での当該テーマにかかわる史料調査のために21年度より申請を行っているが、昨夏滞在中には許可を得るにはいたらなかった。 なお、本研究は社会経済史的な性格をもつものではあるが、政治的な環境と無関係ではあり得ない。昨年5月にアメリカのサンタ・モニカで開かれた国際イラン学会大会において、クルディスターン地方に対するサファヴィー朝の政策に関する口頭発表を行った。
|