本研究は、近代の宣教師関連文書を整理、分析することにより、(1)中国社会のより下層部分の実態を解明しつつ、当該地域の地域史を再構築することと、(2)こうした作業を通して同文書の有用性と限界を明らかにすること、の2点を目的とする。対象地域は広東省東部、対象時期は清末から1920年代末である。 このうち本年度は清末から1920年代への過渡期、具体的には辛亥革命期をはさんだ時期についてまとめる予定であったが、次の2篇の論文を執筆することができた。(1)「近代広東の民衆組織と革命-匪賊的行動様式の観点から」、(2)「キリスト教と近代中国社会-魂の救済から社会の救済へ」。前者は、清末に発生した住民の組織化の動きが、20年代の農民運動にどのように繋がっていくのかを検討し、後者は、19世紀から20世紀への境目にあって、宣教師と中国人信者がある意味でたがいに歩みより、社会への視点を備えた新しいタイプのキリスト教が現れることを、明らかにしようとした。これらの論文は、いずれも平成22年度に刊行予定である。 広東省にかんする重要な史料館として、孫中山文献館がある。本年夏の調査により、従来すでに収集していた史料と合わせ、本史料館での調査を基本的にすべて終了することができた。そのなかで、辛亥革命期の汕頭の様子を克明に綴った貴重な史料も入手することができた。
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