平成23年は、昨年度に引き続き、基本的には「貧民の語り」を通じて貧困の範疇分類化とそのレトリックの分析に取り組んだ。第一に、貧困の原因の発見しようと試みた。貧困の原因を不況による失業、不作・凶作など社会経済的要因のみによるものではなく、高齢期、病気、寡婦や孤児になった場合など、個人のライフサイクルのなかでも貧困に陥りやすいリスキーな時期があることを重視して分類した。第二に、そうした貧困に対応する生存維持の手段の発見しようと試みた。救貧やヴォランタリズムに加えて、家族・親族ネットワーク、近隣関係、質入れ、売春、犯罪など、多様な貧民の生存戦略を明らかにしようとした。第三に、「貧民の語り」をめぐるレトリックの分析を言語論的に分析、語りのパターンを発見して、言語論的位相と社会経済的次元の接合を試みた。夏には、前年度繰り越し分から、ノルウエーのオスロ大学で開催された国際文化史学会に参加して、歴史学方法論の最新の手法を吸収することにつとめた。これらの成果は、「イギリス労働者文化のメタヒストリー」『歴史評論』737号などの論文にまとめられた。また秋には、遅塚忠躬先生を記念するシンポジウム『これまでの歴史学、これからの歴史学』にて「言語論的転回と文化史」と題する報告を行い、明治大学特別記念講演にて「パーソナル・ナラティヴ論の射程」と題する講義を行なった。これまで研究成果は、単著としてまとめられ、平成24年度には刊行される予定となっている。
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