ILOを中心とした社会保障や労働立法に関する思想が、どのように20世紀前半のアメリカに影響を与えたのかという問題を考察している。当該年度には、まず、前年度から繰り越しした研究費を使い、夏休みにスイスのジュネーブにある国際労働機構(ILO)の図書館・文書館へ史料収集に行った。そこで、第一次世界大戦後に設立されたILOの初期の史料、1930年代のアメリカのILOへの加入に関する史料、第二次世界大戦期から終戦直後のアメリカ人スタッフのILOでの活動などに関する史料を集めることができた。またアメリカのILOへの加盟をめぐる議論について、文書館で一次史料を閲覧し、複写した。当該年度の研究費では、ILO、国際労働立法協会(IALL)、アメリカ労働立法協会(AALL)に関する書籍を購入し、それらをもとに研究を進めた。これらの資料をもとに、今後、研究成果をまとめる予定である。さらに関連する研究として、現在の労働法とILOを中心とした国連の組織に関する問題を、特に女性労働に関するものを中心に資料を収集し研究を進めた。それを現在の女性労働をめぐる状況との関連で考察し、女性差別撤廃条約委員会など国連の関連組織がどのようにそれを評価しているのかという問題にも取り組んだ。このテーマの研究成果は、昨年、共著として出版した。その中では特に、国連の女性差別撤廃条約委員会が定期的に出している勧告について、女性の雇用・労働問題、ポジティブ・アクションなどに焦点を当てて詳述した。今後は、1930年代から1940年代のアメリカに再び目を向け、フランクリン・D・ローズヴェルト政権が、社会保障や労働立法の分野において実現した諸政策が、ILOやヨーロッパ諸国からいかなる政策思想的な影響を受けていたのかという問題を引き続き検討していきたい。
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