13世紀フランスにおいて初期「国家史」として成立する俗語年代記『王の物語(Roman des Roys)』は、歴史を語るその叙述スタイルにおいて、先行する「教会史」に典型的なキリスト教的(あるいはユダヤ教的)歴史叙述の伝統を継承する部分も多いことが確認された。他方、論理実証主義のもと一定の様式を生み出してきた近代以降の歴史叙述を先取りする客観的歴史記述に向けた試みも認められた。現代の歴史家も中世の歴史家も、その立場や時代の違いを超えて、「詩的真実」と「歴史的事実」をいかに調和させて読者に「政治的真実」を提示するかという難題を抱えており、叙述スタイルには共通するところも多いように思われる。また王の命を受けて、当時まだ「王の言葉」ではなかった俗語フランス語を用いて普遍年代記の枠組みのなかで王朝史を軸に独自の記述を加えていったサン=ドニ修道院の活動は、第一には、先進的に俗語を用いていた北フランス中小諸侯・諸都市と王権との関係性のなかで理解されるべきであり、第二には、史書編纂が必ずしも活発とはいえない状況のなか、カペー期からヴァロワ期へと続く活動の一貫性・継続性という点において評価されるべきであろう。
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