研究課題
本研究の目的は、アイルランドおよびスコットランド出身のカトリック信徒が、近世北西ヨーロッパ経済の発展に果たした役割を明らかにすることである。平成21年度は、本研究の初年度であったが、平成20年度まで交付された科学研究費補助金(萌芽研究)「近世フランス国際商業におけるアイルランド・ジャコバイトの役割」(課題番号:17652072)によって得られた成果-網羅的な史料整理-に依拠しながら、環大西洋地域におけるジャコバイト事業網の実態についての実証的な考察に早速着手できた。その成果の一部は、平成21年12月に開催されたシンポジウム(裏面の[学会発表]を参照のこと)で発表した。おもな新知見は、第一に、17世紀半ばフランス・ナントに定着した複数のアイルランド商人が、1700年代以降、オランダ地域との交易に参入したこと、第二に、アイルランド出身者とオランダ出身者は姻戚関係を結ぶことにより、事業網を強化し、1710年代以降に大西洋貿易(奴隷貿易)への参入を可能にしたこと、である。これまでの研究史では、海港都市・ボルドーに視座を設定してフランスによる北ヨーロッパ貿易と大西洋貿易への参入および発展を論じることが中心的なテーマであったが、本研究によりナントを拠点とするジャコバイト・ネットワークの実態とその活力の一部を実証することができた。さらに平成21年度後半は、本研究を支える主要な一次史料である「船舶艤装申告書」の一覧を精査する作業も進めることができた。平成22年度は、この一覧を『史料目録』または『史料集』として、まずは日本国内で出版する予定であり、現在、関係各所と交渉・調整中である。平成21年度中に達成した成果-史料整理と分析-は、来年度以降における研究の重要な基盤であり、「ジャコバイト国際事業網の全容と機能を明らかにする」という本研究課題の本質を構成すると考える。
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[共著]「シンポジウム:ヨーロッパ近世における1680年代の再検討-名誉革命からの射程-コメント(2)商業モットワークを中心に」『ODYSSEUS東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻紀要別冊1(2009年)』(東京大学大学院総合文化研究科)
ページ: 110-114
[共著]「18世紀フランスの奴隷貿易」『新版世界各国10 アフリカ史』(川田順三編)(山川出版社)
ページ: 391-419
[共著]「アフリカ大西洋沿岸地域における黒人取引(16世紀中頃)」「ギニア湾沿岸における黒人取引(17世紀後半)」「セネガルにおける黒人取引(18世紀前後)」『世界史史科2南アジア・イスラーム世界・アフリカ18世紀まで』(歴史学研究会編)(岩波書店)
ページ: 328-330