本研究は、古代世界における政治文化について、古代キリシアと古代エジプトの事例をそれぞれ分析しつつ、比較しながら、それぞれの独自性と共通性を明らかにしようとするものである。今年度の6月には、日本西洋史学会で古代ギリシアのアルカイック期アテネにおける僭主政樹立過程について報告を行ったが、これは、政権獲得抗争の中で宗教的正当化の手続きがいかに重要なものであったかを具体的に示したものであり、従来語られてきた、王政から民主政への「合理的」な国制変遷過程に対し、宗教的側面から再検討を試みるものである。そしてその宗教的環境について、古代ギリシアがいかに東方から影響を受けていたか、そして、それにもかかわらずその独自性をどのように顕現させていったか、という問題について取り上げたのが、11月に行った西洋史研究会大会での報告、および12月に行った東北学院大学での講演である。大地の豊穣は、農耕社会にとって極めて重要な問題であり、それと密接な関係を有する性愛の女神は重要な崇拝対象である。ギリシアとオリエントで、豊穣と性愛を司る女神にまつわる、良く似た神話が共有されており、モティーフの影響・伝播の関係が考えられるが、そのことは、生存に関わる普遍的で重要な問題であるだけに自然な現象であるとも言える。しかし、同時に、ギリシアとオリエントで異なる様相も顕れており、当該の女神と戦闘行為との関係という点において、顕著である。戦闘行為やそれに伴う略奪行為も社会の生存にとって根本的な必要性に関わるものであってみれば、その相違は極めて興味深い。また、今年度は8月にエジプトの西方砂漠地帯で神殿跡の調査も行い、ナイル河流域地帯とは異なる宗教環境について貴重な知見を得た。
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