本研究は、古代世界における政治文化について、古代キリシアと古代エジフトの事例をそれぞれ分析しつつ、比較しながら、それぞれの独自性と共通性を明らかにしようとするものである。 今年度の11月には、昨年度学会発表した成果を論として公開した(「アフロディテ女神をめぐる宗教史の一断面-Ilias 5.311-431.からの展望-」)。これはアルカイック期のギリシアの宗教的環境について、いかに東方から影響を受けていたか、そして、それにもかかわらずその独自性をどのように顕現させていったか、という問題について取り上けたものである。 また、3月には古代ギリシアのアルカイック期における政治文化に関する研究成果を公開した(「アガメムノンの夢」)。これは、伝ホメロス削叙事詩における集会や議論の場面において、過去の記憶がどのように利用されていくか、分析したもんである。当該の叙事詩に見られる演説による強制(強請)行為には、過去の出来事を想起させて演説内容を補強する事例がよく見られる。しかし、引用される過去の出来事は、必すしも相手に強制(強請)しようとする内容と対応するものではない。むしろ、過去の出来事に精通していることを誇示することによって、発言者の人格的権威を高めることに利用される傾向がある。このような演説手法が非ギシリア世界の文化とどのような関係にあるか、次年度の課題とする。 海外調査に関しては、8月にチェスタービーティー博物館.(ダブリン、アイルランド)で調査を行い、ホメロスの叙事詩を記したパピルス断片についての知見を深めた。また、12月にはリビアの東南部において、先史時代の宗教観に関する調査を行い、エジプトの周辺地域における宗教環境について貴重な知見を得た。
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