23年度は、これまでの研究において十分に掘り下げられなかった領域に関して、追加的な調査・分析活動を実施した。具体的には、これまでの研究が、首都のコンスタンティノープルに集中した結果、本格的に取り組むことのできなかったギリシア・エーゲ海地域の教会・修道院のモザイクやフレスコ壁画などの実地調査を中心的に実施した。ビザンツ中期の見事なモザイクが現存するギリシア、ボイオティア地方のホシオス・ルカス修道院やキオス島のネア・モニ修道院は、当時の皇帝の手厚い保護と後援の下で施設の造営がなされたことが近年、解明されつつある。その結果、これらの修道院の内部装飾には、後援した皇帝の政治的なメッセージが隠されているという見方があり、それを読み解こうという試みもすでに現れている。この点では、とりわけ、皇帝コンスタンティノス9世モノマコスがその造営を全面的に後援したネア・モニ修道院の事例が重要となろう。コンスタンティノス9世帝に関しては、首都にマンガナの聖ゲオルギオス修道院複合体(現存せず)を造営し、聖ソフィアには自己の肖像モザイクを残すなど、自己の権力の正統化を図るため、宗教的な権威を積極的に利用したふしがある。ネア・モニ修道院の内部装飾についても、首都から派遣された職人集団の手で、皇帝の政治的プログラムに沿った意匠が盛り込まれた可能性が高い。この点は、現地でモザイクを詳細に観察して綿密な調査を実施した。これに加えて、ペロポネソス半島のミストラ遺跡は、後期ビザンツ時代の帝国第2の宮廷所在地として、当時の皇帝権をめぐる政治的イデオロギーを解明するのに最適な多くの宗教施設の遺構が現存している。それらに残る壁画を調査することで、中期とは異なるメッセージを読み取る試みもなされた。
|