平成22年度に実施した研究の主たる内容は以下の三点である。 第一に、シエナ国立文書館、ピサ大司教座聖堂付属文書館、およびルッカ大司教座聖堂付属文書館にて史料調査を実施し、11・12世紀の財産管理記録13点の写真版を入手するとともに、その一部についてテクストの読解作業を行った。 第二に、現地の研究者と意見交換を行った。とりわけ、中世トスカーナ領主制を専門とするピサ大学コッラヴィーニ研究員からは、財産管理文書に関する新たな情報を提供していただくとともに、当該史料を用いた研究の方法について有益な助言を賜った。 第三に、昨年に引きつづきシエナ聖堂参事会の地代リストについて史料論的考察を行うとともに、俗人による地代リストの作成と利用のあり方について検討した。このうちシエナ聖堂参事会については、とくに参事会による文書の作成・保管、そしてアーカイヴや記憶の組織化といった問題との関連の中で論じた。 本研究の意義は、財産管理記録の出現や利用、そして支持素材の物的体裁や内容に関する比較研究が可能となる点にある。今日まで伝来する財産管理記録の多くが農村の教会組織のものであることをふまえるならば、都市の教会組織や俗人の手になる記録は、研究を進める上で、都市と農村、および聖職者と俗人といった比較の参照枠を提供してくれる。今後さらなる事例研究を蓄積し、比較検討作業を進めていくことにより、中世盛期の財産管理記録一般に関する史料論構築への道筋が見えてくるであろう。
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