研究概要 |
平成22年度の主な研究業績は,共編『アメリカ史のフロンティアII現代アメリカの政治文化と世界-20世紀初頭から現代まで』の第7章として発表した,「アイゼンハワー政権とNATO-拡大抑止をめぐって」である。これは,昨年度および今年度の学会発表をもとに,内容を充実させて活字化したものである。本論考の主たるテーマは,標題が示すとおり米国と西欧同盟諸国との関係であるが,より大きな研究の射程として,米・西欧関係と本補助金の研究課題である米・中東関係との質的な相違を実証的に分析したいという問題意識があり,実際に論考末尾ではそのような比較史的な分析を展開している。米国は,西欧および中東の同盟諸国との間に質的には大きく異ならぬ軋礫を生じたが,前者においては同盟の支持基盤を国民レベルで拡大しようとする契機が持続的に見られるのに対して,後者においてはそのような契機は時代とともに後退し,むしろ権威主義体制の狭隘な権力基盤に依拠しようとする傾向を強めていく,というのが,本論考の結論である。米国の同盟網の内部における質的な格差については,自明視されながら,その差異が奈辺にあるか具体的に考察した先行研究は皆無であった。その点で,本論考は米国を中心とする現代世界秩序を考察するための新たな視点を打ち出すことに成功したと考えられる。 これに加え本年度は,米国の国立公文書館から一次史料の複写を取り寄せ,英国の国立公文書館では現地調査を行って1万枚以上の一次史料をデジタルカメラで撮影するとともに,滞在中に撮影不可能であった史料の一部を複写依頼によって取り寄せた。何れについても分析が進捗中であり,来年度以降に研究成果を発表する予定である。
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