研究概要 |
平成23年度は,前年度までにアメリカ合衆国および連合王国で収集した史料の分析を進めるとともに,連合王国における再度の史料調査・収集を行った。本申請以前に連合王国で収集した史料と過去2年間に収集した史料を併せると,3万頁を大きく超える。これまでは,英国側史料の不足が研究の大きなボトルネックであったが,状況は大きく改善した。英国側の関連史料の収集はほぼ完了できたと考えている。 現在は,米英の史料を使用して,1950年代後半における中東石油の世界的位置づけの変化に関する分析を継続中である。第二次世界大戦後の数年間と1970年代初めに中東石油の世界的位置が大きく変化したことは広く知られているが,1950年代後半の変化については,先行研究ではほとんど注目されてこなかった。言及がある場合にも,大規模パイプライン計画の流産,大型タンカーの登場,新規業者の中東参入,OPECの設立,などの事実が断片的に言及されるのみであり,それらを包括した質的変化や政策決定レベルの変化は等閑視されていた。しかし,申請者は,23年度の調査を通じて,これらの動きの背後で,中東石油の世界的位置づけが質的に変容していたこと,そしてそのような変化を受けて米英政府の中東石油政策が質的に変容していったことを明らかにしつつある。具体的には,1950年代末までに,(1)産油国と消費国の利益の一致という米英の中東石油政策の前提が崩壊し,(2)中東石油の取引条件等はグローバルな石油の需給関係に大きく依存するようになり,(3)米英政府は供給源と輸送手段の多様化により消費国の利益擁護を最優先するようになったのである。以上の変化は,申請者が既に発表している,1950年代末の米・中東間の政治的関係の変容ともパラレルの関係にある。 以上が現時点までの史料分析から得られた知見であるが,さまざまな同時並行的変化の過程を整理するとともに,さらなる史料分析によって実証性を高めていく必要がある。この研究成果は,独立した学術論文として発表するのではなく,単著の一章として発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
諸般の雑務や概説書の執筆等による研究の遅延のほかに,連合王国側の史料収集が予想以上に進捗したことに伴いその分析に予想以上に多くの時間を費やしていること,そして,研究課題自体が当初想定していた以上に複雑な問題を含んでいたことが明らかになったことが,遅延の大きな理由である。具体的には,連合王国側の膨大な関連史料を分析する過程で,米国側史料から得られた情報が補われ,新たな知見が得られたのと同時に,中東を巡る米英関係の複雑さが当初の予想を超えるものであることが明らかとなり,現状は,議論の方向性を再検討する途上にある。しかし,最終的な成果の観点に立てば,マイナスの状況にはない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに収集した米英の一次史料の分析を続けることが基本である。ただし,上記11で記したように,英国側の史料分析に伴う新たな問題も発見されたので,それに対応する米国側史料の追加的な調査・分析を行う必要が生じている。この問題を解決するために,年度後半に米国における現地調査を実施する。もともと,最終年度は,それまでの研究の過程で新たに生じた問題に対応するためのフォローアップ的な史料調査を行う予定だったので,24年度の史料調査は本申請の当初に提出した研究計画を逸脱するものではない。 本年度は,これまでの研究成果を踏まえ,単著の執筆を進める予定である。
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