本補助金の最終年度に当たるため,研究成果となる単著の執筆に集中したゆえに,発表された業績はない。年度末には,同単著に関連する最後の海外史料調査として,英国国立公文書館(TNA)での調査を実施した。 研究成果となる単著『戦後アメリカ合衆国の中東政策の形成(仮題)』は,可能であればH.24年度中の脱稿も視野に入れていたが,年度終了時点では全3部構成のうち第3部のみが脱稿し,第1部を執筆中である。第3部では,H.21-23年度に本補助金によって収集した米国国務省史料およびTNA所蔵史料を駆使し,1956-61年の米国の中東石油政策の変容を実証的に跡付けた。この問題については,通説では1950年代初頭に成立した世界的な石油秩序の基本的構造が70年代初頭の所謂「オイルショック」まで維持されたことが言及されるのみであり,その質的転換が看過されてきた。申請者は,1958年イラク革命に前後する時期に米国および英国の中東石油政策が,産油国との利益の共通性という原理に立脚したものから,世界的な需給関係による取引条件の決定という市場原理を前提としたものに変容したことを明らかにした。この質的変容は,第2部で執筆予定の政治的・軍事的政策の変容とパラレルな現象として説明されることになる。 昨年度のTNAでの史料収集は,現在執筆中の第1部にかかわる1950年代初めの史料が中心となった。第2・3部で扱う50年代中葉から末については多くの英国側史料を収集済みであったのに対し,50年代前半期はきわめて手薄であった。単著全体の叙述および論証のバランスを図る上で,昨年度の調査はきわめて有意義であった。 4年間の本補助金によって収集した米英の一次史料は,デジカメ撮影分だけで6万枚を超える。これだけ大量の史料複写を文書館に依頼することは不可能であり,現地調査によってのみ得られる大きな成果であった。
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