1. リュクルゴス弁論における共同体(コイノニア)認識を把握するために、報復と刑罰の関係についてさらなる考察をすすめた。今年度の成果としては、Danielle Allenの近年の主張に反して、報復をめぐる負の互酬性がリュクルゴス弁論にも根付いていたことを明らかにした。また、前4世紀のアッティカ法廷弁論において、恩恵(カリス)と報復(ティモーリア)の論理が、公私にわたる法廷での正当化の論理として普及していたことを確認した。 2. 互酬性に関連して、公的訴追の私的性格についてのドイツ圏における研究史を、19世紀末までさかのぼって確認した。 2. ヘレニズムへの移行期における公共性の連続性と変質を捉えるために、リュクルゴス時代の建築政策、宗教政策、公共奉仕や寄付行為(エピドシス)、懸賞行為にかんして、カイロネイア戦争後の時代状況とペロポネソス戦争後との比較をおこなった。 3. リュクルゴス時代との比較のために、ペロポネソス戦争後の「和解」についてまとめ、『古代文化』に特輯として掲載された。これは基盤研究(B)「東地中海周辺域における儀礼と都市共同体」を承ける企画であるが、代表者執筆部分にかんしては、前4世紀前半アテナイの社会的環境を描く試みとして、本研究の一部ともなる。 4. リュクルゴス弁論における市民生活の重視をより正確に描くために、前4世紀における市民の家の重要性について、アポロドロスのネアイラ弾劾における通婚禁止令に焦点をあてて考察し、その成果を『西洋古代史研究』上において発表した。
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