研究概要 |
今年度は最終年度であるため、3年間の研究成果を文字化することに重点をおいた。まず、リュクルゴスも含む法廷弁論を資料として、カリス(恩恵)トとティモーリア(復讐的刑罰)が形成するアッティカ民衆法廷の論理構造を示すために「アッティカ法廷弁論におけるカリス(恩恵)とティモーリア(復讐的刑罰)」(仮題)を執筆した。そのうち、とくにカリス(恩恵)と哀れみの関係について、Classical Association Conference (Exeter,UK)で報告するために、発表原稿'Pity and Charis in Attic Popular Court'を準備した。 また、『パブリック・ヒストリー』誌において特集『社会秩序と互酬性』を公刊し、企画全体の構成および「総論」と第1章「互酬性と民主制」を担当した。他時代・他地域の事例と比較することで、カリス(恩恵)を、より普遍的な「互酬性」の概念のなかに位置づけることができた。「変化の学」としての歴史学において「互酬性」の概念を適用する際には、互酬の普遍性を確認するのでは不十分であることを示し、ホメロス社会ではなく古典期アテナイ社会において互酬性がどのような時代性をもっていたのかを論じた。 オックスフォード滞在においては、リュクルゴス時代のより多角的な把握のために、近年の碑文研究の進展状況をリサーチし、またCharles Crowther博士の助言を受けた。またその際に、カリスが頻繁に言及される紀元前4世紀前半の「和解」後の言説を取り扱うにあたって、S.Todによる未公刊の博論の閲覧を許され、碑文学の成果と法廷弁論研究の接点を探るという視点を明確化することができた。いっぽうロバート・パーカー教授とは、法廷弁論におけるカリスの支配性について、意見交換をおこなった。
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