研究概要 |
本研究は、第一次大戦期から1920年代にかけて成立し、少なくとも1960年代まで存続したアメリカ合衆国の国民秩序の形成過程を考察するものである。研究3年目(最終年度)となる、本年度は、都市の社会福祉、労働問題の専門家や、軍の政策立案者、黒人の市民権運動家など多様な知識人に注目し、いかに彼らの思想と行動が人種隔離と多元主義を主な属性とする「新秩序」構築に関わったかを明らかにした。夏季には、シカゴ大学で20世紀初頭の慈善団体、Chicago Bureau of Charitiesの関連史料や第一次大戦期の全国国防会議女性支部の報告書を閲覧するなど、主流社会のりベラル勢力が、人種差別や総力戦の問題にどのように取り組んだかを具体的に検討した。また、ワシントンDCにおいても、国立公文書館で黒人や外国人の兵士に対する軍の処遇を示す陸軍参謀本部史料を再検証し、加えて、議会図書館の新聞・定期刊行物セクションでは、New York Age紙をはじめとする黒人メディアの戦中・戦後のナショナリズム関連報道を集中的に分析した。これらの検証は、20世紀転換期から第一次大戦期、1920年代へと国民言説の質的変化を追う形で進められたが、この作業をとおして、特に第一次大戦期以降、アメリカ都市における貧困と人種間暴力の問題が、新たな国民秩序を希求する知識人たちにとって大きな謀題となり、その思想と行動を左右するようになっていたことがわかった。なお、こうした研究成果の一部として、2011年6月に論文、"How the Other Half Was Made : Perceptions of Povertyin Progressive Era Chicago"をJapanese Journal of American Studies(第22号)に、また、2012年12,月には「衝撃都市からゾーン都市へ-20世紀シカゴの都市改革再考」を『史林』(第95巻第1号)に掲載した。
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