本研究は、イギリス帝国を基盤として築き上げられた野生動物・自然保護の国際的ネットワークの全体像に迫り、現代のglobal environmentalismの歴史的起源の一つを明らかにしようとするものである。そのために、アジア各地に及んだ自然保護団体の人的ネットワークの実態を明らかにし、さらにはアフリカとアジアの経験の比較検討をおこなうことを目的としている。 平成23年度末までに、Society for the Preservation of Fauna of Empire(ロンドンに拠点をおく野生動物保護団体。以下、SPFEと略記)の国際的ネットワークの形成、とりわけ英領マラヤ、インドなどの関連団体について、その人員構成、活動実態の究明が進められ、マレー連合州パハンにジョージ5世国立公園が形成される経緯についての研究が進められた。この二点を踏まえて、最終年である本年度では、この国立公園とほぼ同じ頃に着手されたタンガニーカのセレンゲティ保護区の国立公園化計画との比較検討、さらにはこの二つのプロセスの中で、新たな保護主義イデオロギー・政策が登場してくるのだが、これがいかなる力学の作用の末に生じたのかを、さらには、これと関係して生じたSPFEを中心とする自然保護主義陣営の構成メンバーの変化、人的ネットワークの拡大、拡散についてもあわせて明らかにしようとした 具体的には、セレンゲティ国立公園化について、National Archives植民地省関連文書に膨大な史料があり分析し、マレー連合州の事例との比較検討をおこなった。さらに、第二次大戦後にSPFEが Fauna and Flora International に装いを変え、現在の国際自然保護団体の形成に及ぼした影響力について考察した。なお、収集した膨大な史料は今後の研究の発展のためにデータ・ベース化した。
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