平成21年度は、1920年代のベルリンにおいてブルーノ・タウトが関与したジードルンクに関する研究を進める土台を作るために、設備備品費を利用してタウトの著作およびその翻訳、また国内外のタウト関連研究文献の網羅的・体系的収集に努めた。タウトの著作や海外のタウト研究についてはまだ遺漏があるが、日本におけるタウト研究文献については、雑誌論文も含めてほぼ収集が終了した。国内外の先行研究の到達点や問題点については現在検討中であるが、すくなくとも日本のタウト研究の問題点としては次の点を指摘しえるという認識に到達した。(1) 1980年代までは、ドイツにおける活動のみならず、日本におけるタウトの活動や思想すら、タウトの著作の翻訳や彼に関わりのあった人々による著作をそのままなぞった研究ばかりであったが、彼に関する学術的検討の必要性の認識が最近ようやく定着してきた。(2) 日本に残されたタウトの草稿などの一次史料は以前は岩波書店、現在は創造学園大学に所蔵されているが、そうした貴重な史料を使った研究は21世紀になってようやく出始めた。(3) 1970年代以来ドイツでは、タウトの全体像を再構成すべく研究が進んでいるが、日本におけるタウト研究ではそうした研究の摂取が極めて断片的である。(4) ドイツにおけるタウトの建築活動や執筆活動についても未だ簡単な紹介の範囲を出ていない。以上の問題点の克服が、日本における経験も大きく反映した遺著『建築芸術論』に昇華するタウトの建築思想・社会思想の評価、ひいてはタウトの全体像の再構成に不可欠であろう。研究計画では、タウトのジードルンクの実地調査のため1ヶ月程度ベルリンに滞在する予定であったが、勤務先の在外研究制度により2010年3月から11ヶ月ベルリンにおいて研究を遂行できるようになり、科学研究費による調査は取りやめた。ジードルンクの調査は、現在遂行中である。
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