研究概要 |
建築家ブルーノ・タウトの建築や建築思想を社会的・歴史的コンテクストに位置づけつつ再構成することを目指した本研究課題において,最終年度の本年度も、1920年代後半にベルリンで大々的におこなったジードルンク建設についての研究を進めた。勤務先の大阪市立大学の在外研究制度により、平成22年3月1日より平成23年1月30日までベルリンにおいて研究を進める機会をえたのを利用して、次のような研究を進めていた。(1)タウトがベルリンで建てた30数カ所のジードルンクを中心に実地調査を行った。(2)1920年代後半から1930年代にかけて、ドイツの建築界を2分して行われた「屋根論争」についての図書および雑誌記事の収集・分析をおこなた。これは,広範な社会階層のための住宅の屋根が、伝統的なとんがり屋根がよいか新たな手法としての平屋根がよいかをめぐる論争であり,タウトも後者の立場に立っていた。(3)タウトのジードルンクの中でも,ベルリンの南西部に位置する「森のジードルンク」についての実証研究を進めた。(4)タウトの著作・雑誌記事について,ドイツの図書館や文書館に所蔵されているものを網羅的かつ体系的に収集した。文献収集を進める際には,科学研究費補助金の直接経費を使用した。23年度は、これらのテーマについて情報を整理し、個々の情報の位置づけを明確にした。以上の研究により,従来は建築史の立場からその社会的コンテクストが軽視されがちであったタウトの諸建築・建築思想・都市構想について,ヴァイマール期ドイツ・ベルリン社会の中での歴史的意義を現在解明しつつある。そうした成果については今後公表していく予定である。
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