本研究は19~20世紀転換期のイギリスにおける社会主義者たちの環境保護の理念や構想、実践を検討するものである。本年度は先行研究の把握と並行して中心的な資料の収集に努め、主として環境保護の理念・構想面の検討を進めた。より具体的には、1:フェビアン協会が『フェビアン主義と帝国』(1900)で示した帝国論を、グローバルな資源・食糧管理に関する同時代の様々な議論の展開という文脈の中で理解することを目指し、フェビアン協会員の主要著作類や協会の年次報告、機関紙『フェビアン・ニュース』などの調査を進めた。とくに機関紙からは、帝国によるグローバルな資源管理を積極的に提唱していたB.キッドの協会講演会の記録や、P.クロポトキンの自給自足社会構想に対する協会側の批判など、この課題の検討に貢献する様々な材料を得ることができた。2:H.ソルト、E.カーペンター、P.クロポトキンらによる菜食主義や半農生活の提唱に焦点を当て、これらの提唱の歴史的形成過程や同時代的な反響を、先行研究の蓄積が相対的に少ないと思われるソルトを中心に進めた。そのため彼らの主要著作類に加え、ソルトが創設した「人道主義連盟」の機関紙『ヒュマニタリアン』や、その関連誌『ヒュメイン・リヴュー』の調査も行った。とくに『ヒュマニタリアン』と『ヒュメイン・リヴュー』からは、ソルトに対するH.ソローの影響や、ソルトらの議論に対する同時代の反響を考察する材料などを得たほか、ソルトが1900年代以降に示してゆく、イギリス国内における自然保護区設立の構想も確認できた。上述の資料のうち『ヒュマニタリアン』など国内での入手・閲覧ができなかったものは、2010年2月にイギリスで実施した海外調査(ロンドン・スクール・オヴ・エコノミクス図書館およびブリティッシュ・ライブラリ)の際に閲覧した。
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