三年計画の二年目にあたる本年はまず、フェビアン社会主義者たちの人口思想と資源管理論、さらに帝国論をより十全に把握するために、前年度までに収集した資料に加え、ロンドン・スクール・オヴ・エコノミクスのフェビアン協会関連のアーカイヴ資料や、マルサス主義連盟の機関誌など関連資料の調査を進めた。また本年は、社会主義者や無政府主義者らが設立した様々な農業的・半農的共同体についても調査を進めた。調査の焦点は、一次資料が比較的残されていることもあって、P・クロポトキンの信奉者らが1895年にニューカスル・アポン・タインに設立した「クラウズデン・ヒル自由共産主義・協同コロニー」に絞り、その設立理念や同時代における反響を、同コロニーの設立趣意書や、社会主義系新聞・地方新聞の記事等から確認した。ただし同コロニーをはじめとする農業的・半農的共同体の運営は必ずしも成功しなかったこと、また、半農生活にも一定の関心を示していたヘンリ・ソルトらはむしろ、都市生活とも両立しうる菜食主義の実践や広域自然保護区の設立の提唱等を進めてゆくことも、本年の調査によって具体的に示された。以上の研究の一環として2011年3月には英国で資料収集を実施し(ブリティッシュ・ライブラリ、ロンドン・スクール・オヴ・エコノミクス図書館、ニューカスル市立図書館)、ニューカスルでは上記コロニーの跡地も確認した。なお以上の研究成果のうち、ソルトによる広域自然保護区の提唱に関して得られた知見等は、別記の論文で公表した。また、以上の研究成果の一部は、神戸市外国語大学の「英国研究センター」の研究会でも発表した。
|