最終年度にあたる本年度においては、1:補充的な資料調査、2:収集した資料の継続的な分析、3:研究成果の発表と総括を進めた。1に関しては、主として国内の大学附属図書館を利用して、『クラリオン』、『プリーダム』など、19世紀末のイギリスにおける社会主義系(無政府主義系を含む)の新聞資料等の補充調査を進めた。 2に関しては、補充調査で得た資料などから(1)「自然に帰れ」などの掛け声を伴った農村生活の提唱が当時のイギリス社会主義者の間に根強く見られたこと、(2)イギリスの自給自足化を訴えるP.クロポトキンの主張や、それにも影響されたニューカッスルの農業共同体「クラウズデン・ヒル自由・共産・協同コロニー」の実践が社会主義者の間で反響を呼んでいたことが、より具体的に確認できた。他方H.ソルトの著作類や「人道主義連盟」の関連資料の継続的な検討も進め、(3)ソルト自身は国内における菜食主義の拡大が英国の農村復興をもたらすとの展望を有していたこと、(4)他方、「人道主義連盟」内部では、菜食主義の速やかな普及は困難であるとの認識のもと、都市生活と肉食を事実上の前提とした家畜保護論や食改革論が台頭していたことなどが、明らかとなった。また以上と並行して、帝国の天然資源に関するフェビアン協会の認識も、ボーア戦争期における協会内議論を中心として継続的に検討した。 3.に関しては、別記論文および別記報告によって研究成果の一部を発表した。また19世紀末のロンドンでオープン・スペースの整備を進めたミース伯爵に関する拙稿(「ロンドン住民の健康と帝都の美観-ミース伯爵によるオープン・スペースの整備-」、岡村東洋光・高田実・金澤周作編著『英国福祉ボランタリズムの起源』ミネルヴァ書房、2012年刊行予定、所収)にも、研究成果の一部を盛り込んだ。
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