本研究は、急速に都市化した近現代イギリスにおける「緑化」をめぐる人びとの思考の変化が、都市という近代的な住環境にどのように反映され表象されているかを検討し、19世紀から20世紀初期のイギリス人の自然環境に対する感受性の変遷を浮き彫りにするという全体構想の下に、都市生活者に最も身近であった(人造植物も含む)観用植物や植物デザインなどを利用した私的空間の緑化(「緑」の配置、栽培)がこの時期に急速に発展した経緯、および園芸の趣味が貴族の奢侈から大衆の健全な「合理的余暇」(《rational leisure》)や精神的な慰めへとコンテクストを広げていった過程を探ることを目指している。今年度は、主に19世紀の新聞のデータベースを用いて、植物の受容、博覧会、クリスマス、シダブームなどに関する記事を検索、抜粋した。また、重要な資料の購入を行い、分析をすすめている。 当初予定していたイギリスにおける資料収集が家族の病気のため不可能となったため、代わりにイギリスにおいてリサーチアシスタントを雇用し、必要文献の収集を行うとともに、19世紀の植物モチーフの壁紙として代表的でありイギリスで広く用いられた金唐革紙のデータベース作成を行った。 アウトプットとしては、とりわけ日本の植物分化がイギリスに与えた影響に特化して執筆した投稿論文「両大戦間期イギリスの空間のジャポニスムにみる生け花・盆栽の影響」が日本デザイン学会のジャーナル『デザイン学研究』57巻4号に掲載されることが決定している。
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