本研究は、急速に都市化した近現代イギリスにおける「緑化」をめぐる人びとの思考の変化が、都市という近代的な住環境にどのように反映され表象されているかを検討し、19世紀から20世紀初期のイギリス人の自然環境に対する感受性の変遷を浮き彫りにするという全体構想の下に、都市生活者に最も身近であった(人造植物も含む)観用植物や植物デザインなどを利用した私的空間の緑化(「緑」の配置、栽培)がこの時期に急速に発展した経緯、および園芸の趣味が貴族の奢侈から大衆の健全な「合理的余暇」や精神的な慰めへとコンテクストを広げていった過程を探ることを目指している。 平成22年度は、主に地域社会あるいは階級意識と植物の育成との関連に注目しながらイギリス各地(花卉栽培愛好家の団体が古くからあるヨーク、ノリッジ、マンチェスター、ダービー、ロンドン)の花卉協会や園芸協会の歴史を探った。地方都市の市民の園芸活動に関する一次史料や様々な園芸団体の活動記録が必要であったが、事情により調査出張ができなくなったため、ローカルアーカイヴのリサーチサービスを用いつつ、日記や写真アルバムのデータや諸団体の活動記録といった一次資料をできるかぎり収集した。また、品種改良や景観など、自然と民衆との関わりを広く探るための二次文献を購入した。それらをもとに、地域と緑の関係、また聖職者による園芸活動の位置づけ、都市のモラルを守るという植物(栽培)の新たな役割などをテーマに考察を行った。
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