本研究の目的は、18世紀後半から19世紀前半のイギリスで、地域社会に根差しながら様々な公共活動に関与したローカルエリートの世界観と社会的実践を明らかにすることである。この目的を達成するために、本研究は、日本国内での文献調査、イギリスでの史料調査、内外の研究者との交流による意見交換という三つの柱を立てている。 本年度は、当該時期のイギリスにおける農業改良と医療に関する基本文献を収集し、またエドワード・リグビとカレブ・パリという二人の人物の公共活動の実態を解明すべく、関連情報の収集に取り組んだ。当初の計画では、資料調査は日本とイギリスの両国で実施される予定であったが、日本における資料収集が順調に進んだこと、および日程上の理由から、イギリスでの資料収集は来年度以降に延期した。一方で、当初の計画通り、研究協力者のジョアナ・イニス氏のイギリスよりの招聘は実行された。 本年度後半は、収集した文献を集中的に検討することで、最新の研究動向の把握に取り組んだ。リグビとパリについては、国内の大学図書館が契約している電子データベースを利用して彼らが執筆したパンフレット類を収集し、その内容分析に着手した。また、9月に来日したイニス氏とは、単に個人的な情報交換を行うにとどまらず、公開ワークショップを開催して30名程度の参加者を得た。この結果、当該分野に関心を持つ研究者や大学院生から幅広い意見と助言を得ることが出来た。 本年度中に実施された研究を通じて、近代国家形成期のイギリスで公共政策や社会政策を、中央政府のレヴェルではなく、地域社会のレヴェルで担った人々の姿を浮かび上がらせるための基礎的作業が大きく進展したといえる。
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