本研究の目的は、18世紀後半から19世紀前半のイギリスで、地域社会に根差しながら様々な公共活動に関与したローカルエリートの世界観と社会的実践を明らかにすることである。この目的を達成するために、ここでは、日本国内での文献調査、イギリスでの史料調査、内外の研究者との交流による意見交換という三つの柱を立てている。 本年度も、前年度に引き続き、当該時期のイギリスにおける農業改良と医療に関する基本文献と関連情報の収集に取り組んだ。資料調査は日本とイギリスで実施され、日本では主に研究文献を集め、イギリスでは史料を閲覧収集した。加えて、昨年度中に収集した慈善に関する研究文献や史料の本格的検討の作業にも着手した。また、プロジェクトの最終年度にあたって、本テーマをより広範な時代文脈のなかに位置づけることを念頭に、「長い18世紀」の性格を再検討するシンポジウムに参加して研究動向と時代像についての報告を、5月に行った(日本英文学会第84回大会)。さらに9月には、英国ケンブリッジで行われた第七回日英歴史家会議の部会(Urban history and heritage)で、都市の慈善基金とその意味についての研究報告を行った。後者の内容はまもなく公刊の予定である。渡英時には、本研究開始時からの協力者と研究交流も実施した。 上記のように、本年度は、これまでに日英で収集してきた資料の総合的な検討と、研究成果の一部の口頭報告による試験的な提示に取り組んだ。その上で、口頭報告への反応を踏まえ、本プロジェクト全体の成果をまとめる方向を明確化することに努めた。全体として、近代国家形成期のイギリスで公共政策や社会政策を、地域社会のレヴェルで担った人々の姿を浮かび上がらせる作業に、相応の進展があったと考えている。
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