本研究の目的は、16世紀前半の宗教改革期のドイツで形成された「民衆語(ドイツ語)のパンフレットによる大衆的情報伝達と公論形成のメカニズム」が16世紀後半の宗教対立の下でいかなる変容を遂げたのか、という問題について、基礎的解明をおこなうことである。今年度は、分析対象となるパンフレットの選定・収集作業をおこなうとともに、「(1)パンフレットの内容及びテーマ上の特徴」と「(2)パンフレットの大衆的情報伝達手段としての特徴」について分析を進めた。具体的には、16世紀のドイツ語圏で刊行された約10万点の印刷物に関するバイエルン図書館連盟のオンライン・データベースを基礎的資料として用いながら、16世紀後期のルター派地域で出版された「宗教対立の下でのプロパガンダを目的とするドイツ話パンフレット」のうち、特に「公論形成」という観点から重要な特徴を有していると判断しうるパンフレットをリストアップし、「(a)ドイツ連邦共和国の図書館での史料閲覧及び複写」、「(b)マイクロ史料の利用」「(c)オンライン公開されたデジタル化史料の利用」という三通りの方法を併用して、約300点のパンフレットの分析をおこなった。このうちの(a)の作業の一環として、8~9月に「バイエルン州立図書館(ミュンヘン)」と「アウグスト公図書館(ヴォルフェンビュッテル)」で閲覧・選定作業に従事した。「(I)公論喚起のためのモチーフ」「(II)同時代の宗教的・宗派的な対立状況についての立場表明」(III)パンフレットの作者が想定している受容層」「(IV)非識字層への情報伝達上の工夫」といった観点から各パンフレットを分析した結果、「《宗教対立下の言論活動》そのものの主題化」「非ドイツ語圏の宗派対立状況への積極的言及」「無学な平民と諸身分という二種類の受容層の区別」「韻文・対話文などの口頭伝達的表現の利用」等の諸特徴を確認することができた。
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