本研究では、いわゆる第二次英仏百年戦争期(1688-1815年)におけるフランス海軍の成立や、沿岸島喚部に生きる「海民」の状況について考察を進めてきたが、本年度はそれらを総括する時期にあたっている。その結果、研究発表欄に記したように、研究成果を4点の論考にまとめることができた(海洋史関係は3点)。 研究代表者からみて、フランス海軍にせよ、奴隷貿易にせよ、これまであまり顧慮されなかったフランス海洋史の一断面が明らかにされたことの意義は大きいと思っている。というのも、近世の海事史はほぼイギリスを中心に論議され、叙述されることが多く、フランスの役割は過小評価されてきたからである。この点で、たとえば、コルベール時代のフランス海軍が、数の上でも、船の技術の上でも、イギリス海軍と拮抗する艦船を有していたこと、また、これらの艦船を用いたフランス独自の海軍戦略の一端が確認されたことは、フランスの海洋政策そのものの根本的な見直しを促すことになるだろう。フランスの奴隷貿易についても、17-18世紀に膨張してゆくさまを、統計を交えて、かなり鮮明に浮き彫りにすることができた。もちろん、政府は、通商と海軍を一体のものとして取り組んでいたのであり、そこに、イギリスとは異なる、もうひとつ(あえていえば「大陸型」のタイプ)の対外発展の姿が垣間見えてくる。 もっとも、フランス海洋史研究はようやく緒についたばかりであって、研究代表者は、これまで得られた知見をもとに、海軍と通商、海港都市間の関係、海事裁判所の役割、「海民」のマンタリテなどの問題に今後も取り組んでゆきたい。
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