本研究は、近世フランスの海事史について、フランス海軍の成立事情、沿岸部で暮らす「海民」の状況から検討を進めてきた。その結果、第一に、ルイ14世親政時代以降のフランスがイギリスに匹敵する海軍力を有し、それをもとに対外発展の基本戦略が練られていたこと、第二に、「難破船」の扱いの考察から、それを「神からの贈り物」とみなす沿岸部の人々に対し、海洋の安全や所有権の不可侵の見地から、難破船への権利を主張する政府当局との見解の違いが鮮明になった。それは、相対的に自立的な沿岸世界に王権が徐々に支配権を及ぼしたことの表れであり、王権による沿岸世界の「国民化」を暗示するものである。
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