奈良・平安時代の墨書・線刻遺物(土器・石製品など)として記されている語句と文章について、とくに当該文字資料が質量ともに豊富な関東地域を対象として、文献収集と資料および出土遺跡・遺構の実地調査を下記の通り行った。 [文献調査] 国立国会図書館等での文献調査・検索・複写 6月12~13日 関東地域の発掘調査報告書等複写 [資料調査] 千葉県における実地(遺物実見等)調査 8月25~27日 八千代市立郷土資料館ほか 埼玉県における実地(遺物実見等)調査 10月23~24日 埼玉県上里町皀樹原・檜下遺跡調査 栃木県における実地(遺物実見等)調査 11月6~8日 下野薬師寺歴史館・栃木県立博物館ほか 群馬県における実地(遺物実見等)調査 11月13~15日 多胡碑記念館・甘楽古代館ほか これらの実地調査によって、関東地方出土の奈良・平安時代の遺跡から出土した宗教関文字資料についての基礎的な知見を得た。その後、文献資料検索・調査で得た資料によって、出土遺跡・遺構の事実認識と研究史の整理と把握を行った。とくに儒教的な典拠をもつ語句が仏教的な状況下で用いられている遺物(武蔵国府関連遺跡出土墨書土器)について、今年度調査した関東地域の古代文字資料との相互の比較検討と出典論的研究を経て、奈良時代における儒教経典に由来する孝思想の地方的展開と仏教的習俗である火葬と融合している点を明らかにするとともに、土器に対する墨書の書写行為の類型性から、集落内の寺院など仏教関係遺跡から出土する遺物と親縁関係があることを証した。
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