研究課題/領域番号 |
21520780
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研究機関 | 総合地球環境学研究所 |
研究代表者 |
細谷 葵 総合地球環境学研究所, 研究部, プロジェクト研究員 (40455233)
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研究分担者 |
佐藤 洋一郎 総合地球環境学研究所, 研究部, 教授 (20145113)
槙林 啓介 総合地球環境学研究所, 研究部, プロジェクト上級研究員 (50403621)
田中 克典 総合地球環境学研究所, 研究部, プロジェクト研究員 (00450213)
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キーワード | イネ遺存体 / 野生植物遺存体 / 地形環境 / DNA分析 / 東西交易 / 多様性 / 長江下流域 / イネ栽培 |
研究概要 |
イネの栽培化と農耕社会の形成過程を解明すべく、考古学と遺伝学それぞれの分野で昨年度の準備研究で培った新しい視点を生かし、研究活動を展開した。結果、いずれも画期的な成果を得ることができた。 まず考古学分野においては、従来の中国初期稲作研究で行われてきたイネ遺存体分析ばかりでなく、初期稲作期においても重要な食料源だったことが示唆されている野生植物遺存体の組織的分析と、その加工法の復元、さらに、生業の舞台となった地形環境の変化の様相も併せて検討する必要性を指摘し、研究を実施した。地形環境の形成過程については、沖積作用・海岸線形成および後背湿地形成のパターンから、長江下流域を「寧紹平原タイプ」と「太湖・江蘇平原タイプ」に分類できた。出土している野生植物遺存体の様相の分析からも、この2タイプの地域においては、自然資源利用の方向性が異なっていたことが読み取れた。すなわち、イネ栽培化を基盤とする農耕社会の形成過程は、長江下流域においても一様ではなく、地形環境と社会的指向性の違いによって複数のパターンが存在したことを見出した。 遺伝学においては、中国における稲作の発達過程を解明すべく、陜西省西安市にある魚化寨遺跡出土の漢代墓葬のイネ遺存体をDNA分析した。同地域は中国北域の粟作と南域の稲作の境界にあたり、東西交流を考察する上で重要な場所である。昨年開発した葉緑体ゲノムと核ゲノムのDNAマーカーを利用した分析によって、陶倉に収められていたイネはインディカ型と温帯ジャポニカ型だと判明した。インディカ型は4000年前には南方で利用されたとされる(Fuller 2010)。また、イネはシルクロードを伝播していたことも示唆されている(Molina et al.2011)。すなわち、東西や南北の交易の中で様々な文化やモノが導入されて同地域が社会的発展をとげた中で、多様なイネが利用されていた事実が復元できた。
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