平成22年度は昨年度に引き続き各地の博物館・資料館に所蔵する九州・伝九州出土経筒及び経塚関係資料の現地調査を行った。 経筒本体の型式分類については多くの先行研究があり、基本的にはこの先行研究の分類を大きくずれるものは今の所認められない。しかし、数多くの実資料を実見することで型式設定の見直しをする必要があることがわかった。九州地域の経筒は複数の素材や非常に多くの形態的なバリエーションが存在し、日本考古学においては土器分類などで行われる属性を細分した分類ではかえってまとまりがなくなり、大別した方が確実な分類を行うことができる事を確認した。 詳細は更なる検討を要するが、塔(相輪)形紐と宝珠形紐の二者に大別し、分類することに歴史的意義があると想定される。この分類は銅製経筒の大半だけでなく、陶製専用経筒や滑石製経筒にも当てはめることが可能である。つまり九州地域における経筒のほぼ全種類において統一的な思考の元で経筒が作られ、経塚に埋納された可能性があることが経筒の形態から述べることが可能である。この点について更に実資料を増やして検討を重ねる予定である。 科学的分析については平成23年度に九州歴史資料館においてCTスキャン装置及び蛍光X線分析の装置が稼働することや、資料展示を行うことから実作業を平成23年度に送ることとしたが、赤外線による資料撮影により、新たに1合の宋人墨書銘を持つ経筒の存在を確認することができた。この成果については最終年度の本年度に報告の予定である。見通しとしては銅製輪積式経筒の成分分析から陶製専用経筒同様に宋からの輸入であることを証明し、平安時代末期の経塚造営の流行に思想的、宗教的な側面のみではなく、経塚造営に関わる宋と博多の商人が介在した商業的側面を多分に含んでいた事を示唆する証拠を提示したい。その上で九州地域における経塚造営及び経筒のもつ歴史的意義についてまとめる予定である。
|