本研究は、新聞・報告書・旅行案内書・リーフレット・鳥瞰図・写真・広告などの多様なメディアを分析することで、近代日本におけるツーリズムが、どのような時期に、どのような場所で、どのような人びとを対象として成立していたのかを考察することを目的としている。ここでいうメディアとは、言語だけではなく、地図・イラスト・写真などの図像も含んでいる。 本年度における研究成果は以下のとおりである。(1)「明治43年の群馬県教育品展覧会と郷土誌編纂事業」(えりあぐんま15号)では、明治期における地方博覧会が多くの人びとを動員したイベントであったことを示した。(2)「名所絵はがきを読む」(歴博158号)では、伊香保と草津の二つの温泉を事例として、絵はがき・鳥瞰図の分析による景観変遷の読解と、絵はがきの画像を利用する際の留意点や課題について論述した。(3)「戦前期における鉄道旅行の普及と草津温泉の変容」(『観光の空間』ナカニシヤ出版)では、統計・案内書・リーフレットなどを活用して、鉄道の発達とともに草津が湯治場から観光地へと変容していく過程を捉えた。 上記の報告のほかに、メディア研究の方法論に関する文献の整理と内容の検討を行った。また、明治期に出版された日本全国を対象とした旅行案内書や写真帖を収集して、対象地域や挿絵等の画像をリストアップするなどのデータベース化を進めた。さらに、北海道大学附属図書館北方資料室や北海道立図書館において資料調査とその撮影を行った。これらの具体的な事例の検討は次年度以降に進める予定である。
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