最終年である本年は、「里海」の景観構造と伝統的生業活動がその維持に果たしてきた機能について、奄美大島北部をフィールドとする現地調査の補足および三年間の成果の集約を行った。 1.サンゴ礁浅海域の景観分析と藻類の潜在的生育場所に関するスノーケル調査(服部) 佐仁集落前のサンゴ礁において、新旧の航空写真画像から読み取れる景観要素を実際の底質や海藻群落の有無と現地にて対応づけ、熱帯性ホンダワラ類がかつて繁茂していた場所の特性を明らかにした。 2.村落の生業活動の変化に関する分析と景観復原(佐野) 佐仁集落および喜瀬集落において、地先サンゴ礁における海藻採取とその糊料利用および肥料利用について聞き取り調査を行った。採取活動に伴う栄養塩類の陸上への移動と、生業の変化による海域の環境変化について分析した。 3.水文学的手法によるシミュレーションの検討 佐仁川流域の水循環プロセスをSWAT(Soil and Water Assessment Toolによりモデル化し、1970年代以降の農業振興政策にともなうサトウキビ栽培の普及が流域の栄養塩・土壌流出を有意に増加させてきたことをシミュレーションから明らかにした。 以上の各研究成果の照合によって、背後の陸域まで含んだサンゴ礁浅海の「里海」の景観構造と、生業活動の変容に伴うその環境変化の動態が具体的に明らかになった。これらの結果については、一部を口頭発表のうえ、学術誌に投稿中である。
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