本年度は、前年度に続き肥前陶磁器産地のアクターへのインタビューを継続した。特に、昨年度アクセスしなかった商業者、及び有田町で1990年代初めにイノベーションを形成した窯元へのインタビューが、昨年度の実態調査を補完する上で役に立った。これらを踏まえて、日本地理学会2011年春季学術大会で発表する予定だったが、東日本大震災のため、要旨集掲載の要旨のみの発表となった。口頭報告では要旨集に記述できない内容を含める予定だったので、来年度、別の形で学会報告をし、論文としてまとめる予定である。そのエッセンスは、業務用和食器に傾斜していた有田焼産地は、家庭用和食器あるいはモダンさを組み込んだ食器や、食器以外の飾り物的意味を持つ陶磁器製品の開発と販路開拓を行なうのが通例である、ということである。その中で成功したイノベーションに値するものは、産地外のアクターとの結びつきがあるか、または産地内のアクター間協力という形態を取ることが明らかとなった。 九州経済を、企業レベル及び産業集積レベルでのイノベーション・知識創造という観点から考察するために、本年度は特に熊本県に立地する誘致大企業と地元中小企業に焦点を当てるとともに、長崎・大分・宮崎の各県に散在するイノベーティヴな中小企業経営者のインタビューを行った。その結果、九州に散在的に立地するイノベーティヴな中小企業は、そのイノベーションの源泉を自社内での営為に持つとしても、そうするための刺激を近隣地域からではなく、九州域外あるいは域内遠隔地から受けていることが多いことが明らかとなった。
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