研究課題/領域番号 |
21520798
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山本 健兒 九州大学, 経済学研究院, 教授 (50136355)
|
キーワード | イノベーション / 九州 / 中小企業 / 域内需要 / 移出 / 輸出 |
研究概要 |
本年度は、福岡県内に立地するイノベーティヴな中小製造企業数社、佐賀県、熊本県、鹿児島県の農村地帯に立地するイノベーティヴな中小製造企業数社を訪問し、各社のイノベーション形成の経緯を聞き取りした。また、九州経済を構成する各地域間の経済連関を把握するための指標の一つとなりうる「府県間貨物流動調査」の分析を試みるとともに、この資料の有効性と限界を、調査実施主体である国土交通省総合政策局情報管理部でのヒヤリングをもとに考察した。あわせて、理論的な考察を深めるために、特に知識創造に関する英語文献の読解を進めた。 以上の調査研究から、農村地域に孤立的に立地する製造業中小企業であってもイノベーティヴたりうる認識を得たことが特筆される。例えば、鹿児島県南九州市に立地するM社は、地元の特産農産物生産のための機械生産に従事しており、地元農家のニーズに応える努力から、外国の農業企業による引き合いに応えうる企業今と発展した。また佐賀県鹿島市に立地するT社は、比較的近隣の船舶修理企業のために必要な金属製品の製造から出発して、現在では船舶用ディーゼルエンジン不可欠な大型シリンダライナ生産で世界シェアの40%を握るほどに、したがって輸出で稼ぐ企業へと発展した。このように、中小企業は、立地する地域内部、あるいはその近隣に存在する需要に応える努力から出発して、他地域や外国からの需要に応える能力を持ち、かつその能力を長期にわたって持続させる場合がある。 イノベーティヴな中小企業がすべてこのような発展経路をたどるというわけではないが、域内需要に応える企業から移出・輸出で成功する企業へと発展することができる要因を明らかにすることが今後の課題となる。 なお、昨年度までの研究成果をもとに韓国ソウル市で開催された第3回経済地理学グローバル会議で報告し、今年度得た研究成果も加味して人文地理学会大会で報告をした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究のための現地調査それ自体や、成果の学会発表の実施という点ではおおむね順調に進展しているが、成果を論文の形に結実させるという点で遅れている。その理由は、平成22年度に教育研究評議員、平成23年度に研究院長(学府長・学部長を兼ねる)になり、部局運営のための管理職に就いたため、考える時間と論文にまとめる時間を持つことが困難になってきているからである。
|
今後の研究の推進方策 |
研究課題そのものや研究計画を変更する必要はない。重要な点は、考察と論文執筆のための時間をやりくりして作り出せるか否かである。この点で、平成24年度は部局長も2年目であり、当初の目的を達成できるよう、時間の使い方を工夫する予定である。 平成24年度は文献研究・補充調査・学会報告を遂行するとともに、これまで作成してきた草稿を、投稿できるレベルの原稿に引き上げて、いずれかの学会誌に投稿する。
|