本年度は、鹿児島県に立地する農業機械メーカーと宮崎県に立地する食品メーカーとでインタビューを行なった。その結果、前者のイノベーションの契機となる知識創造には、農業団体や公的機関との連携による場合があったが、それは需要の発信源という意味においてであって、開発の過程においてということでは必ずしもなかった。他方、後者のイノベーションは、他社(経営者は親戚)が開発した機械を活用して顧客を自社が開拓したというものであり、その開拓の際にマスメディアによる報道が有効だった。 また、これまでの研究を踏まえて、イギリスに学会本部を置くRegional Stdies Associationから、これの第1回グローバル・カンファレンスのキーノートスピーカーとしての講演依頼を受けたので応諾し、九州経済の発展に関わって、イノベーティヴな中小企業の事例を盛り込んだ報告を2012年6月に行なった。 さらに、県都まで自動車で1時間半以上の距離にあるほぼ純粋な農村地域に位置しながら2000年代に顕著な業績をあげた鹿児島県の中小企業を事例にして、この企業のイノベーション実現の背景にある要因を描き出す論文を執筆して公表した。そのイノベーションは全自動でのCD・DVD(光ディスク)修復器の開発・生産・販売の成功である。この新商品開発そのものは、この企業独自の工夫によるが、開発依頼が寄せられるような地位を築き上げていたこと、すなわち評判をとっていたこと、評判をとるにあたって地元の農林水産物生産のための省力化機械等の開発、すなわち域内需要に応えていたことと、地元の公的機関との情報交換などが有効に機能していたことが明らかとなった。しかし、企業業績の顕著な成長は、地域の外にあるニーズ、さらには国際的な市場をつかんだからであり、その際に地域の外に取引先を開拓できたことが重要である。その開拓には国際展示会が有効だった。
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