研究概要 |
本年度の目的は,東京50km圏の都心通勤限界地に位置する住宅地のなかから,1960-70年代に開発された住宅地を事例にとりあげ,住民に対するアンケート調査とインタビュー調査を通じて,住民やコミュニティの特性が住まいの継続や継承,ひいては住宅地の持続可能性にどのように反映されるのかを明らかにすることである。 事例地区に選定したのは埼玉県毛呂山町の武州長瀬駅周辺の住宅地であり,東京の都心からちょうど50km,副都心のターミナル池袋まで60分強の位置にある。1960年代から宅地造成が始まり,以後,断続的に宅地開発がおこなわれてきた。2009年11月に3000部のアンケート調査票をポスティングで戸建住宅に配布し,272通(9.1%)をメールバックで回収した。回答者は現在60歳以上のリタイア層(年金生活者)が中心で,子どもが離家した夫婦のみ世帯もしくは独居世帯が多い。親世代は相対的に低学歴で現業職に就いていた者が多く,その傾向は子世代にも引き継がれている。つまり,これまで典型的に描かれてきたホワイトカラーの郊外住宅地とは一線を画す住宅地であり,また社会階層の再生産の様相もうかがえる。しかしながら,親世代の居住継続意思は非常に強く,住宅の建て替えや増築,隣地敷地の買いとりも比較的活発に行われている。こうした状況を解釈するには,より詳しい言説分析を待たなければならないが,子世代に地元就業や近居が多く,修正拡大家族の特徴が看取されることが注目される。
|