本研究の目的は、労働者派遣業の労働力調達行動と大都市圏の人口構成・就業行動の変化を踏まえ、労働者派遣業に供給される労働力の特質およびその供給メカニズムを、名古屋大都市圏を対象地域とした実態調査に基づいて明らかにすることである。平成23年度には、労働者派遣業にとって主要な労働力調達地域である工業地域を対象に、労働者の職業選択理由を分析し、製造派遣への労働力供給の要因を考察した。このため、西三河地域に立地する労働者派遣事業所および製造派遣経験者に対する聞き取り調査を実施し、そこで得た資料をもとに分析を行った。 労働者派遣業は、顧客製造業が求める労働者、特に勤勉で健康な若年単身者を採用するために全国レベルで求人活動を行う一方、経費抑制に有効な顧客製造業の通勤圏すなわち工業地域でも求人活動を行う。西三河地域で調査した労働者派遣事業所の場合、17事業所すべてが西三河地域で求人活動を行っていた。 一方、労働者に対する調査結果から、高い賃金を理由として製造派遣を選択する労働者がいるものの、回答者の多くは就業までの時間の短さや手続きの簡単さ等、労働者派遣業を通じた就業の利便性を理由に選択していることが判明した。西三河地域において製造派遣と直接雇用の間で賃金の差は比較的小さく、また雇用機会が多いため、国内周辺地域のような雇用機会や低賃金性が労働力供給の要因になっているとはいいがたい。製造業の生産部門において労働者派遣業を通じた就業が拡大するなかで、製造職を希望する労働者は製造派遣を選択せざるを得なくなっている。 こうした変化にともなって派遣労働者になった中高年、就職と離職を繰り返すフリーター、労働者派遣の利便性やサービスに魅力を感じる求職者等が地元工業地域から供給されており、これを含めて工業地域の労働力需給圏が形成されていると考えられる。
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