本研究の課題は、(1)1980年代から90年代にかけて日本に受け入れられた「インドシナ難民」を対象とする施策、(2)個別難民の審査システムや受け入れ制度および支援体制、(3)個別難民の定住後の生活状況の3点を解明し、これを地理学視点から考察することである。(1)については、昨年度までの調査結果を書籍として刊行しており、今年度は、難民に関する法律と政策の1980年代以降の変化および民間団体による難民や庇護申請者を対象とする支援に重点をおいて調査した。 インドシナ難民の受け入れ以後の難民政策の変化については、地理学以外で多数の文献があり、その収集を行った。また、タイの難民キャンプに滞在するミャンマー難民を対象とした第三国定住の支援内容および地域社会に出てからの生活状況についての詳細な情報は、政府や支援業務の委託を受けた機関からは直接には得られなかったため、新聞記事やインターネットで公表された情報を収集した。そして、欧米の地理学の難民研究から得られた知見を基に、日本における難民への施策や支援体制を地理学的に研究する可能性について検討した。日本においては、難民の受け入れ実績の少なさそのものが、政府による国家空間の管理のあり方を探るという観点から地理学的研究対象となりえる。また、1990年代以降設立された新たな団体による活動を把握した上で、国内における支援の地域差および海外との比較を通じて日本における難民の支援体制の特徴を明らかにすることも地理学の重要な研究課題となりえることを指摘した。なお、地理学における難民研究の動向については、日本地理学会秋季大会におけるエスニック地理学研究グループの例会で口頭発表を行った。
|