調査地域は、滋賀県大津市の栗原地区周辺である。本年度は2頭のイノシシにGPSを装着し、5月~8月の行動追跡を行った。その結果.2頭とも栗原の東部(南在地区)を特徴的に環境利用(耕作放棄地や放置竹林を利用)した。そこで、栗原の東部の土地利用とイノシシの行動の関連を分析した。栗原の灌漑用水路の管理と農作業用の農道の整備に着目したところ、栗原には、水田の灌漑用水路の管理(水源の見回りや取水)において共同して管理にあたる区域と個人的な取水に依拠する二通りの区域があり、東部は後者にあてはまった。前者では共同的な水路の管理とまとまった面積の水田経営がみられ、その中でイノシシの被害対策も共同で電気柵の管理を行っていた。まとまった水田の周辺には耕作放棄地や放置竹林がみられるが、耕作放棄地がモザイク状に水田の中に入っておらず、電気柵による水田の囲い込みと管理が容易な条件となっていた。一方、後者では、水田や水路の管理は個人的なものとなり、被害対策も個々で行う場合が多い。東部では、耕作放棄地がモザイク状に水田の中に入っており、そのような中で個々の農家による電気柵などの被害防除が行われていた。水田の経営状況は、農道の整備にも影響していた。現在は、軽トラックなどが通れる広さの農道が必要であるが、耕作放棄地の増加と経営意欲の低下によって東部では農道の廃道化や不整備がめだつ。耕作放棄地の増加や経営意欲の低下の要因の一つがイノシシなどによる水田被害であることから、水田経営の形態や内容を検討し野生動物とのすみ分けを図ることが重要となる。
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