米国植民地状況下でのフィリピン人エリートは、米国植民地主義から独立を叫ぶ解放者とのイメージで捉えられてきた。しかしながら、元来地主や大規模土地所有者であり、地方エリートである彼らの経済基盤は、むしろ米国植民地体制下で温存され、一層強化されてきた。こうした状況下において、彼らエリートの主要関心事は、人口稠密であったルソン島・ビサヤ諸島が抱える小作制や土地なし農民といった農業問題ではなく、あくまでも自らの経済権益を擁護することであった。植民地状況下で再編された植民地エリート偏重型の政治・経済システムが、地域間、階層間、民族間の格差を強化せざるをえなかった逆説に、フィリピン・ナショナリスムが必然的に孕まざるを得なかった矛盾が浮かび上がる。
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