本研究の目的は、極西部ネパールにおける人類学的フィールドワークに基づき、体制転換期ネパールにおける広義の政治言語の生成、流通、変容の布置の一例を、同時代的に記録し分析することであった。この目的を達成するため、平成23年度には、諸事情により当初予定より短縮されたものの、8月12日から8月24日にかけてネパールに出張してカトマンドゥ盆地在住の極西部ネパール出身者に対するインタビューを行い、併せて昨年度までの調査の確認作業を行うと共に、関連の資料を収集した。また、昨年度に引き続き、言語人類学・社会言語学関係、及び他地域の類似の現象を扱う民族誌を中心に文献の検討も進めた。さらに本年度は、これまでの本研究における蓄積を整理し、学会等で発表していく作業を積極的に行った。まず5月には複数のビデオクリップを用いて人々の政治的な言語使用の多様性を分析する発表を日本文化人類学会研究大会において行い、7月には伝統的な知識の文字化が引き起こす諸問題を国際人類学民族学連合の学会で発表した。8月には、上記出張期間中に開かれたネパールの政治と社会の動態に関する国際会議に出席し、村レヴェルでの「政治」のあり方の歴史的変遷を論じた発表を行い、ネパール内外め研究者と広く意見交換を行った。さらに9月には国際ヒマラヤ言語学シンポジウムにおいて、現地の言語の書記化の社会言語学的側面について発表し、11月には、社会運動に焦点を当てた社会科学方法論のシンポジウムにおいて、民族誌的手法によって社会動態を論じることの可能性と困難について、極西部の政治的運動の事例に依拠して論じた。相互に関係し合う以上の発表により、本研究の成果の全体像を大まかに提示することが出来た。
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