マレーシア、サラワク州のバラム河支流、プアッ(Puak)川沿いで約2週間のフィールドワークを行った。彼らが自分たちの森と考えている領域には、10数箇所の遊動場所があった。遊動プナン人の自律的生存の要はサゴヤシであり、彼らはその生育状況を予想して、次の遊動場所を決めている。 1993年までのサラワク州政府の計画では、プアッ川沿いを含む6万6千haは遊動プナン人のための特別の森林として守られるはずであった。しかしながら、計画は突如白紙となり、その地は一転して商業伐採の対象となってしまった。一方で、商業伐採後にプナン人たちはプアッ川沿いでサゴヤシの植栽を始めている。また、デンマークの篤志家はプアッ川沿いに長屋式住居の建設を申し出た。それにより、最近十数家族が寝泊りできる住居ができた。 ただし、現在まで十分な炭水化物を保障してくれるのは、野生のサゴヤシに限られる。周りで栽培しているサゴヤシは収穫できるまでに至っていない。そこで、家族ごとに交替で遊動場所まででかけ、相当量のデンプンを持ち帰ってくる。プアッ川沿いのプナン人は、森林開発の波に飲み込まれながらも、定住や栽培という生活戦略を併用して遊動生活を維持している。 研究成果の一部は、東京大学大学院総合文化研究科に提出した学位論文「熱帯雨林の資源利用をめぐるポリティカル・エコロジー」に発表し、平成22年度9月に博士(学術)の学位授与を受けた。次年度は、バラム河の則のプナン人集団でのフノールワークを行い、合年度得られたデータとの比較検討を行う。
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