本年度は研究初年度ということもあって、喜捨と慈善という概念が当該社会においてどのように理解されてきたのか、さまざまな文脈に則って、広く概観することを研究の主題とした。研究対象としているシンガポールにはマレー系住民の多くが信奉するイスラーム、華人系住民の多くが信奉するキリスト教や仏教、道教系宗教、タミル系住民が信奉するヒンドゥー教など多様な宗教的背景があり、そういった人々を横断するような形で喜捨や慈善という考え方が理解され、実践されている。そのため、今年度は特定の宗教に限定せずに可能な限りにおいて、喜捨や慈善という概念がどのように規定されているのか、研究を行った。その結果、イスラームや仏教、道教系宗教の文脈においての理解については、実際にその実践を行っている人々や資料を調査することができた。なかでも温州系華人の同郷組織を基盤とした自廟を元に、宗教活動、慈善活動、福祉活動等を多方面に渡って実践している某善堂の場合、その活動が歴史的に見ても、シンガポールの社会基盤を補完するような形で実践されてきたことがわかった。また、それ以外の宗教を基盤とした団体においても、同様に慈善活動が行われてきていることがわかり、社会基盤の整備を政府主導で行うのとは別の文脈で、同様の活動が行われていることは、特徴的であった。今後はこれらの実践活動の内容や目指す目的、あるいは具体的にどういった医療活動、経済活動等が行われているのか、調査を行い、論文としてまとめられるようにしたい。
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