研究課題
本研究の目的は、ヴァナキュラー・デモクラシーという観点から、グローカルな民主主義の実践と思想について考察を行い、人類学の視点から、民主主義に関する政治哲学をその根本から再検討することにあった。その主眼は、世界的に多様な民主主義のかたちを民族誌的な観点から明らかにすること、現在新たに築かれつつある民主的な社会運動のネットワークを描写すること、そして、そうした経験的事実に立ちながら、民主主義の実践と理念を、西洋主導の国家学の桎梏から解き放ち、人類学の観点から真の意味で地球社会にとって普遍的な実践哲学へと磨き上げることにあった。調査については、オリッサのいくつかの県をサーベイした。特に、1992年の地方分権化によって大幅な権限を有するようになった村落自治体の運営の実態を調査し、またさまざまな政治社会運動の運動家に会ってインタビューを行った。特に興味深かったのは、外部資本の導入による鉱山開発や工場設立を巡って、全国的な議論と運動が展開していたことである。これはグローバル市場と地域社会が接合する過程において、現地住民や市民が一方的な受け身にあるのではなく、政治過程やメディアや社会運動を通じて声をあげる政治経済的主体として現出しつつあることを示している。調査の過程では、「民衆、人民」(loka, people)ということばがしきりに聞かれ、この「民衆、人民」とは誰か、誰が公共領域への参加権を有するのか、また発展・開発は誰のために誰が行うのか、ということが論争の焦点になっていることが確認された。また現代インドにおいて、地域社会の価値や社会関係とグローバル経済をいかに結ぶかという問題に即して、ヴァナキュラー・デモクラシーという民衆参加の民主政治が新たに活性化していることが確認できた。これは地域に即したあらたな民主主義のかたちが生まれつつあることを示すと考えられる。
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熱帯のなかの熱帯生存圈-温帯パラダイムを超えて(杉原薫・脇村孝平・藤田幸一・田辺明生編)
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アジ研ワールドトレンド
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