研究概要 |
最終年度にあたる本年度は、フィリピンにおける補足調査と研究の取りまとめ、課題に関する理論的枠組みの整理、そしてその発表に重点がおかれた。フィリピンにおいて支配的となる資源管理レジームに関し、以下の諸点について理論的整理を行った。1)地方分権の進展と資源管理制度の関連、2)海域資源の区画化と囲い込みの状況、3)海域資源の商品化の進展、4)エコツーリズムの隆盛と地元漁民の生業への影響、5)地方自治体、NGO、そして資源利用者間の相互交渉、6)環境統治(environmentality)とエコ・ラショナル(eco-rational)な主体の形成など。とくに、5)、6)の点に関しては、フィリピンにおけるフィールドワークによって、ライフヒスリーや日常生活の微視的資料などの定性的エスノグラフィックなデーターの収集に努めた。 これらの研究成果は、国内では日本文化人類学会、海外では国際人類学民族学連合学会(オーストラリア・パース)などにて口頭発表され、さらにこの分野において第一線で活躍する各国の研究者による論文集である"PALAWAN AND ITS GLOBAL NETWORK" (Ateneo de Manila University Press,近刊)の一章として発表された。 本研究は、フィリピンにおける資源管理の制度構築に資する事例研究を提示しえることはもとより、現在世界各地で進展中の自然資源管理保全とその地元住民、資源利用者への影響に関して貴重な示唆を与えるであろう。さらに広く環境と人間の相互交渉を考察する環境人類学の分野においても、あらたな知見と理論的貢献が可能であると考えられる。
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