(1)ブラジル・アマゾンにおけるフィールドワーク(8/28-9-5):ブラジル北部、アマゾン河口に位置するマラジョー島のカショエラ・ド・アラリおよびサンア・クルス・ド・アラリ地方において、同地域の先史文化(マラジョアーラ文化)の遺跡・遺物が現地社会住民にとってもつ意味について、聞き取りおよび遺跡・遺物の実地検分を中心に実態調査を行った。調査の結果、行政や観光振興の言説において「マラジョアーラ文化」が地域的アイデンティティの核として喧伝されているのと裏腹に、当のマラジョーの住民の多くにとっては遺物や遺跡が「価値あるものらしいが」という非常に漠然としたかたちでイメージされているにすぎないこと、しかし外部者がそれに容喙することに対しては抵抗感があることが明らかになった。そこには、従来、遺物とそれをめぐる物語が学術的に囲い込まれ、リジョナルあるいはナショナルなレベルへと収奪されてきた歴史を読み取ることができる。また軌道に乗りつつあるかに見えた「先史土器復興」の試みは、連邦政府資金等によるプロジェクトの終了、販路確保の困難から、やや停滞した状況にあることが明らかになった。(2)研究機関における調査(8/19-8/27):ベレンにおいてパラ連邦大学の考古学者を中心に、マラジョー島を対象とする発掘調査の現状について調査を行った。資金的問題のみならず現地住民の(しばしば対立する)さまざまな思惑や外部者に対する反感が、発掘調査の進捗を困難にしている一方で、遺物の違法な売却が後を絶たないという窮状が明らかになった。(3)日本国内における文献研究(全期間):考古学における最新の研究を中心に文献研究を広汎に実施し、発掘調査実施上の実際的問題を端緒として考古学の理論的研究が活発化していることを確認することができた。その成果の一端をまとめた論文「物質性の人類学に向けて」は、平成22年度中に公刊される。
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