平成21年度は、宗教(とくにマレーシアのイスラーム)が受容、定着、拡大する過程を具体的に跡づけるために、衣食住などの現代的ライフスタイルのなかで商品化された宗教に関しての資料収集、ならびに人々の宗教実践と宗教消費にかんする意識についての調査をおこなった。 具体的には、マラヤ大学、マレーシア国民大学、マレーシア国立図書館等で文献調査をおこなうとともに、宗教を商品として消費している(たとえばムスリム女性のファッションとしての衣服、イスラーム的ポピュラー音楽、コーランの章句を刻んだ装飾品など)人々の、宗教意識や宗教実践についての聞き取り調査をおこなった。さらに比較の観点を導入するために、タイにおける宗教の消費についての同種の資料収集も、短期日ではあるが実施した。 これらの調査からは、現代世界における宗教実践は、狭義の宗教行動によってではなく、より広い(一見すると宗教とは関係のないようにすら見える)行動によっても支えられていることがあきらかになった。最終的な結論は次年度以降の研究の深化を待たねばならないが、このような宗教実践のあり方は、グローバル化した消費社会に適合的な宗教実践と呼べるかもしれない。 さらに本年度は研究初年度にあたることから、本研究プロジェクト全体の枠組みを明確にするために、現代社会における宗教のあり方を、近年のマレーシアにおけるイスラーム国家論争を題材にして、世俗化論との関係のなかで検討し、研究論文としてとりまとめた。
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