平成22年度も、宗教(とくにマレーシアのイスラーム)が受容、定着、拡大する過程を具体的に跡づけるために、現代的ライフスタイルのなかで消費(あるいは商品化)された宗教に関しての資料収集、ならびに人々の宗教実践と宗教消費にかんする意識についての調査をおこなった。具体的には、マレーシア国民大学図書館、マラヤ大学図書館、マレーシア国立図書館等において文献資料の調査、収集をおこなうとともに、クアラルンプール市ならびにその近郊地域において、文化人類学的フィールドワークを実施した。さらに比較の観点を導入するために、短期日ではあるがシンガポールにおいてイスラームの消費についての同種の資料を収集した。 前年度の知見を踏まえて今年度あきらかになったのは以下の3点である。1. イスラームの消費が増加してきたのはマレーシアの経済成長が進んだ1980年代になってからであり、マレー系優遇政策(ブミプトラ政策)とともに出現したマレー系中間層の間で顕著である。2. イスラームの消費にさいしては、マレー系ムスリムはつねに「正しい」とされるイスラームのコードに則ってそれを実践している。たとえばイスラーム由来の装飾品を飾るさいにも、どのように飾るべきかについて彼らのイスラーム解釈に基づいた一定の規則性が観察される。3. イスラームの消費においても、現代社会における消費行動一般とおなじく、消費を通してアイデンティティの確認や他者との差異化などが実現されていることを指摘できる。 なお上記の考察については、現代消費社会におけるイスラームのあり方という観点から、研究論文としてとりまとめた。
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